赤ちゃん一人のために、わずか6ヶ月で世界初の治療薬が作られる

ころんぶん編集部・読了目安:3分・出典: Musunuru et al. (2025), New England Journal of Medicine / Children's Hospital of Philadelphia

出典: Children's Hospital of Philadelphia・NIH発表資料をもとに、ころんぶん編集部が作成した治療の経過図

3行でわかる要約

  • 生後わずか数日でCPS1欠損症という致死的な代謝疾患と診断された赤ちゃん(愛称KJ)に対し、彼の遺伝子変異だけをターゲットにしたオーダーメイドのCRISPR(ゲノム編集)治療が開発された。
  • 診断からわずか6ヶ月という異例の速さで治療薬が設計・製造され、2025年2月、世界で初めて投与された。
  • その後複数回の追加投与を経て、重篤な副作用なく、食事のタンパク質摂取量が増え、感染症からの回復力も向上するなど、着実な改善が報告されている。

ころんの解説

CPS1欠損症は、体内でできたアンモニアを無害な尿素に変換できなくなる、非常にまれな代謝の病気です。アンモニアが体に溜まると脳や肝臓にダメージを与えてしまうため、これまでは食事制限や肝移植など、限られた対処法しかありませんでした。アメリカで生まれたKJくんは、生後まもなくこの病気と診断されました。

この治療がすごいのは、「KJくん、ただ一人のためだけ」に設計された点です。CRISPR(ゲノム編集技術)を使って、彼の遺伝子に生じている特定の変異だけをピンポイントで修正する「ベースエディティング」という治療薬を、脂質の粒(脂質ナノ粒子)に包んで肝臓に届けました。通常、新しい薬の開発には何年もかかりますが、今回は診断からわずか6ヶ月というスピードで作られたそうです。

2025年2月に最初の投与を受けたKJくんは、その後も追加の投与を経て、重い副作用もなく、食べられるタンパク質の量が増えたり、風邪をひいてもアンモニアが急上昇しなくなったりと、着実に回復に向かっているそうです。もちろんこれはまだ「たった1人の患者」の結果なので、すぐに他の病気にも同じ方法が使えるとは限りませんが、研究チームはこの手法を他のまれな遺伝性疾患にも広げたいと話しています。

詳しい経過

※このセクションは、治療を行ったChildren's Hospital of Philadelphia(CHOP)の公式発表と、査読済み論文(New England Journal of Medicine, 2025)の内容をもとに、ころんぶん編集部がまとめたものです。

KJくんは生後まもなく、重症型のCPS1欠損症と診断され、CHOPへ搬送されました。この病気は数万人に1人という非常にまれな遺伝性疾患で、従来の治療法だけでは根本的な解決が難しいとされていました。CHOPの研究者であるRebecca Ahrens-Nicklas医師とペンシルベニア大学のKiran Musunuru医師のチームは、以前から個別化した遺伝子治療の研究に取り組んでおり、KJくんの遺伝子変異が判明すると、彼専用の治療薬の設計に着手しました。

研究チームは、CRISPR技術を応用した「ベースエディティング」という手法で、KJくんの遺伝子の特定の1文字を修正する治療薬を設計・製造し、肝臓の細胞に届けるための脂質ナノ粒子に封入しました。診断からおよそ6ヶ月後の2025年2月、KJくんは世界で初めてこの個別設計の治療薬の投与を受け、3月・4月にも追加投与が行われました。2025年4月時点で、深刻な副作用は報告されておらず、タンパク質の摂取量が増加し、必要な薬の量が減り、感染症にかかっても症状が悪化しにくくなるといった改善が見られています。この結果は2025年5月、New England Journal of Medicine誌に論文として発表されました。

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